ZF 集合論上での基数についての基本的性質 (3)
記事の趣旨
本記事は前回の記事の続編である。順序数の Cantor 標準形の存在や、Hartogs の定理、またその簡単な応用について論じる。
注意
この記事においては、基本的に ZF 公理系を採用する。またこの記事は Loren J. Halbeisen "Combinatorial Set Theory - With a Gentle Introduction to Forcing" の 4 章を大きく参考にしている。
Cantor 標準形
補題 1 順序数 に対して次の条件をみたす順序数 がただひとつ存在する:
- .
証明 帰納的に が示される。したがって、 をみたすような最小の順序数 をとることができるが、これは極限順序数ではあり得ないため、ある順序数 によって が成り立つ。よってこのとき が成り立ち、明らかにこのような はただひとつに定まる。Q.E.D.
補題 2 無限順序数 に対し、ある正整数 と順序数 と順序数 について と表示でき、またこの表示は一意的である。
証明 を補題 1 の条件をみたすような順序数とする。このとき、明らかにある正整数 によって が成り立つ。このとき を とおくと、 が成り立つ。一意性は明らか。Q.E.D.
定理 3 任意の順序数 について、有限個の順序数 と正整数 によって として表示でき、またこの表示は一意的である。
証明 補題 2 の帰納的適用によって得られる。また、一意性についても明らかである。Q.E.D.
定理 3 によって得られた表示を Cantor 標準形とよぶ。
Hartogs の定理
定理 4 基数 について、順序数 であって なるものが存在する。
証明 を 上の整列順序全体の集合とする。このとき とおくと は順序数となる。このとき なる単射が存在したならば となって矛盾する。Q.E.D.
応用
定理 5 順序付け可能な無限集合 について の濃度は同等である。ただし とはそれぞれ に値をとる単射的な有限列全体、有限列全体の集合のことを指す。
証明 明らかに が成り立つため、 を示せばよい。
を順序付けすることで を順序数であると思ってよい。このとき、Cantor 標準形をとることで として表示されているとしてよい。これは への全単射を持つため、以下 を であると思ってよい。
を渡って から への単射 の族が存在することに注意すると、 の元 について を充てる対応は単射となる。Q.E.D.
定理 6 基数 について ならば が成り立つ。
証明 が有限の場合は明らか。 が無限集合であるとして、 なる単射の存在から矛盾を導く。
まず なる単射を構成する。 適当な 点を選び、 なる単射をつくる。次に、 なる単射が構成できたときにこれを へ延長することを考える。 の像を とおく。このとき、 には元が存在するが、 には標準的な方法で順序を入れられるため(辞書式順序など)、 から標準的な方法で元をひとつとることができる。よって標準的な方法で の元をひとつとることができる。よって帰納的に単射 をとることができる。
次に順序数 について単射 がとれたとする。 の像を とおくと、Cantor 標準形を用いて標準的な方法で なる全単射をとることができるため、 なる全単射を標準的にとることができる。
次に、 を、 に対して なる が存在するならばその を、そうでなければ適当な値を充てる関数としてとる。また としてとる。ここで、 ならばこれは矛盾を導くので、標準的な方法で再び の元をとることができる。よって、帰納的に順序数全体のクラスから への単射がとれることになるが、これは定理 4 に反する。よって は無限基数ではあり得ない。Q.E.D.
参考文献
- Loren J. Halbeisen, "Combinatorial Set Theory - With a Gentle Introduction to Forcing", 2012.