空-Q-所為

在の実践

平方剰余の相互法則 - 初等的な群論によるアプローチ

記事の趣旨

この記事においては、Alfred Czogała, Przemysław Koprowski, "Yet another proof of the quadratic reciprocity law" において報告された平方剰余の相互法則の証明についての解説を行う。

arxiv.org

解説

有限群 $G$ について、有限生成アーベル群の構造定理からある自然数の列 $n_1, n_2, \ldots , n_d$ について $G \cong \mathbb{Z}/n_1\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}/n_2\mathbb{Z} \oplus \ldots \oplus \mathbb{Z}/n_d\mathbb{Z}$ が成り立つ。このような $n_1, n_2, \ldots, n_d$ を固定しておく。このとき $n_1, n_2, \ldots, n_d$ のなかで偶数であるようなものの個数を $r$ とおく。この値を $G$ の $2$-rank とよぶ。また $G$ の位数 $2$ の元全体のなす部分群を $G_2$ とおくと、次の関係式が成り立つ。

  • $|G_2| = 2^r$.

このとき、具体的に計算を行えば、$r \neq 1$ の場合には  \Sigma_{g \in G} g = 0 が成り立ち、また $r = 1$ の場合には  \Sigma_{g \in G} g は唯一存在する非自明な位数 $2$ の元に一致する。

この論文の根幹を担うのは次の補題である。この補題素数 $p$, $q$ についての $G_{p,q} = \mathbb{F}_p^{\times} \times \mathbb{F}_q^{\times}/\{(1,1),(-1,-1)\}$ に適用することで平方剰余の相互法則を得ることができる。

補題自然数の組 $s_1, \ldots, s_d$ を任意に取る。このとき $1 \leq i \leq d$ について $C_i = \mathbb{Z}/2s_i \mathbb{Z}$ とおき、また群 $G$ を $C_1 \oplus \ldots \oplus C_d$ とおく。また $\Gamma = \{(0,\ldots,0), (s_1,\ldots,s_d)\} \subset G$ と定める。このとき、$G/\Gamma$ の $2$-rank は、$1 \leq i \leq d$ について $s_i$ がすべて偶数であるときにのみ $d$ と一致し、それ以外の場合には $d-1$ に一致する。

証明 $A = (C_1)_2 \times \ldots \times (C_d)_2$ とおく。

$s_1$ が奇数であった場合について、$2g \in \Gamma$ となるには $2g = 0$ でなければならない。よってこの場合には $A/\Gamma = (G/\Gamma)_2$ が成り立つ。よって $G/\Gamma$ の $2$-rank は $d-1$. $s_2, \ldots, s_d$ のいずれの場合にも同様である。

$s_1, \ldots, s_d$ がいずれも偶数であった場合について考える。$1 \leq i \leq d$ について $t_i = \frac{s_i}{2}$ とおく。このとき $2g \in \Gamma$ なるには $g \in G_2$ あるいは $g \in G_2 + (t_1, \ldots, t_d)$ となることが必要十分である。よって準同型定理により $G/\Gamma$ の $2$-rank は $d$ と一致することがわかる。Q.E.D.

従って、$p \cong q \equiv 1 \ \mathrm{mod}\ 4$ の場合にのみ $G_{p,q}$ は $2$-rank が $2$ であり、そうでない場合には $2$-rank は $1$ となる。

このとき $G_{p,q}$ の元の総積は $\{(k,k)|0 \lt k \lt \frac{pq}{2}, p \nmid k, q \nmid k\}$ の積として計算できる。このとき $\prod_{0 \lt k \lt \frac{pq}{2}, p \nmid k, q \nmid k} k \equiv (-1)^{\frac{q-1}{2}}\cdot \left(\frac{q}{p}\right) \ \mathrm{mod}\ p$, $\prod_{0 \lt k \lt \frac{pq}{2}, p \nmid k, q \nmid k} k \equiv (-1)^{\frac{p-1}{2}}\cdot \left(\frac{p}{q}\right) \ \mathrm{mod}\ q$ が成り立つため、あとは簡単な計算によって平方剰余の相互法則が導かれる。

参考文献

  1. Alfred Czogała, Przemysław Koprowski, "Yet another proof of the quadratic reciprocity law", 2018, https://arxiv.org/abs/1804.00199